「COVERS」(8)落し蓋

魚を煮付けるようになるまではあまり使うことはなかった。一番手前の金属製の落としぶたは小さい頃から母が使っていた。父が50年勤めた会社はステンレスの金属加工をする会社で、兄弟会社から試作品が送られてきたようだ。実に使い勝手がいい。適切な重さと煮汁を循環させる構造、取っ手の形も他の落としぶたと2枚使うときにうまく重なり使いやすい。桜の花びらを模した穴が可愛らしい。
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母は歯が左右上下に1本ずつしかなく、亡くなる4-5年前から顎が細くなり入れ歯を何度も作り直した。
しかし、うまく合わずに歯医者さんを変えて回った。抜かなくともいい歯を抜かれたと地元の歯科を責めたものだ。


なかなか口に合う(咀嚼可能な)料理が少なくて苦労した。
新潟に事務所を借りて毎日通っていた頃(妻は仕事で家にいないことがおおかった)は、通勤ラッシュを避け、朝4時くらいから起きて、カレイを煮付けた。前日の帰宅途中に買えたカレイの大きさに合わせて雪平を選び砂糖と酒に醤油で煮付ける、朝食の一番最初に鍋をセットして、味噌汁を作り、卵を焼いて何か一品用意する。ヨーグルトをさらに盛り終わるころ煮付けはできる。卵が多いカレイに当たるとなんか得したような気分になった。

朝と昼の分を一緒に作り、カゴに入れて持っていくとすでに母は起きていて大喜びで受け取るのだった。夕方は早く帰り夕食を作り持って行った。母が亡くなって数年、カレイを買う気にはならなかった。最近時折作ることもある。父は歯が丈夫で何でも喜んで食べる。

木でできたものは違った趣がある、一番手前は母の使っていたものだ。
厚く、重さがある。何の素材だろうか長年煮汁を吸って、いい色になっている。時折煮汁がなくなるまで忘れていたことがあったようで縁が焦げている。なぜこんなに古いのに捨てないのかと思っていたが、使い始めてこの落としぶたのおかげで美味しいのではないかと思い始めた。下の二つは僕が買ったものでまたまだ年季が足りない。一番小さい雪平には会う大きさがなく小皿を使ったり、クッキングペーパーや銀紙も使う事もある。
金属製の2枚目のものは大きさが変わる、確か僕が買ったはずなのだがいつ買ったかは覚えていない、一番奥は、圧力鍋の蒸し用のものだ。