命の川に鯉を返す  加治川水系のお話

母が何度か鯉がカラスに突かれて死にそうなので見に来て欲しいという。
またかと思い放っておいたのだけど見に行った。

鯉屋のおじさんも来てくれたそうだのだが、腹に卵が詰まって出てこないんだねえということだそうだ。

池の端で浮かんで死んでいるようだった。
力弱く動こうともしないで、網で上げてもぴくりともしない。この鯉は60cmくらいの体長、僕が小さい頃から池にいたので40年以上生きている。
すぐに川に返すことにした。

ポリバケツに入れて車に乗せた。(何も動かないで入っているというのはありえない元気の無さである)
ダメかなと思いながらも川に急ぐ。


川に戻したら、全く動けなかった鯉がすこしずつエラを動かし始めて泳ぎだしたのである。

鯉に語りかける母の声が胸に来る。元気だった頃の鯉、そして自分の姿を思い出しているのだろうか。



夕方行ってみたら既に鯉はいなくなっていた。


昔から池で病気になった鯉は川に返すと元気になるという。

イカリ虫なんかに侵されて死にそうになっている鯉を川に返すと治るということだ。
本当かどうかは知らない。
しかし、鯉とイカリ虫はともに進化してきていると考えるとそういうことも有りのような気がする。
狭い池という環境ではイカリ虫は鯉を殺すが、広い川の環境ではそうはならないはずのような気がする。

この鯉にとって何が問題かは分からないが、広い川は鯉を癒すのだろうと思う。

何万年も生きてきた所で、命は蘇る。


僕らは、どんな所で生きることで蘇るのだろうか?ああ、キャンプしたい。


10年以上前にも動けなくなった鯉をここに返しに来た事を思い出した。

川がそばにあるというのは色々なことを考えさせられる。




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