治療を拒否する糖尿病患者
僕は坂口安吾が大好き。
いつなのかは覚えていないが、彼の「教祖の文学」と言う小林秀雄論の中で触れられている宮沢賢治の遺稿を忘れられない。
「眼にて言ふ」
だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな
ゆふべからねむらず
血も出つゞけなもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう
もう清明が近いので
もみぢの嫩芽わかめと毛のやうな花に
秋草のやうな波を立て
あんなに青空から
もりあがつて湧くやうに
きれいな風がくるですな
あなたは医学会のお帰りか何かは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば
これで死んでもまづは文句もありません
血がでてゐるにかゝはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄こんぱくなかばからだをはなれたのですかな
たゞどうも血のために
それを言へないのがひどいです
あなたの方から見たら
ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やつぱりきれいな青ぞらと
すきとほつた風ばかりです
『目が見えなくなる、足を切断しなければならない、「透析」をしなければならなくなる、』と言われながら、治療を続けられない患者の目には医師はどんな姿に写っているのだろうか?
患者は病気の入れ物ではない。
医師と患者のあいだの溝は深い。
考えさせられるものだ。
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