馬の首風雲録 mixiより引越し2006年09月02日 22:21

馬の首風雲録 (扶桑社文庫)

馬の首風雲録 (扶桑社文庫)

2000 早川書房 筒井 康隆

大好きな作家の大好きな作品。
そして、戦争は続いている。

筒井康隆と言う人の作品は皆大好きなのだが、この作品は少し特別な位置にある。1972年頃の作品なのでかなり初期の作品。初期の代表作と思う。

地球人が馬の首星雲と言う所に侵略に行く話。当然戦争なので、沢山の生き物が死ぬ。裏切りを行なう、勇敢に戦う、愚劣に生き、卑怯な上官は居る。

ベトナム戦争との関係が深いかもしれない。そして、過去のあらゆる戦争のイメージが渾然となっている。

地球人が侵略して行く星の生き物が犬の姿をしていたり、名前が「ズンドロー」「ヤム」「マケラ」とか、童話の様な語り口をしながら淡々と進むところなども面白い。

始めて読んだのは高校の頃だったと思うのだが、その時全く意味が分からなくて、時間が経ち、ベトナムの意味を知り、スペイン内乱の意味を知り、沖縄の意味を知り、深さが分かって来た一冊になった。

今回読み直してみて、また違った意味を見つけた様な気がする。

筒井康隆さんがハードボイルド作家だなあと実感した。

>>>>>>p239 馬の首風雲録<<<<<<<

ここがおれの死に場所か------かれは狭いトーチカを見回してそう思った。空気の有る所で死にたかったな。酸素供給パイプから出て来る空気しかないところじゃなしに------そうも思った空気がない所で死んだ人間は彼だけではなく他にもいっぱいいる事を彼は知っていたが、彼の心はそれで慰められる事はなかった。夫を失った妻が、たとえ他にも妻に愛された男たちが大勢死んでいることを知ったところで決して慰められることがないように。しかし------と、彼は思った----おれは今まで面白い目にあって来た、色々なことを楽しんだ、それはおれが兵隊だったからだ、おれは農民だった、だから兵隊になっていなきゃとてもあんな面白い目に遭うこともなかっただろう。だからおれがここで戦って死ぬと言うことは勘定に合っているわけで、貸し借り無しになる訳だ。また、彼はこうも思った-----もっと生きていられたかもしれない、だがいずれは老いぼれて兵隊としての役にはたたなくなり、軍を追われるだろう、そうなったら乞食をする他ないわけで、おれはそんな風になるのが死ぬより嫌だ、それはおれの性格的なものだ、おれは軍人にむいていたわけだから、おれに一番ぴったりした死に方は戦って死ぬことなのだ。----。そこまで考えると彼にはもう考えることがなくなってしまった。

早川書房(ハヤカワ文庫)
馬の首風雲録
筒井康隆

昭和47年3月31日発行
昭和50年4月30日三刷


305233