兵隊やくざmixiより引越し2006年09月10日 03:53

兵隊やくざ [DVD]

兵隊やくざ [DVD]

2005 菊島隆三 勝新太郎, 勝新太郎, 田村高廣


すげえ映画である。
こういう映画が作られた時代背景を考えるとはるかに世の中は変わってしまった。
映画は世相を反映する鏡である。

戦争への反省が失われているから、「憲法改正」などと言う言葉が語られるのだ。

残念な時代、そして憂鬱である。

アメリカ映画にはいくつかのコード(決まり)があって、どんな映画も、その決まりからはずれることは無いと言う話を何かで読んだことが有る。
その内の一つに『脱走兵は幸せになれない』と言うものがあると言うことだった。つまり、「国を守る軍隊を脱走した兵士は幸せになってはいけない=軍隊は崇高にしておかしてはならないもの」なのだ確かに映画の中で軍隊に対しての様々な批判はあるが、根底では必ず肯定しているのである。コールドマウンテンなんて言う映画はアメリカの脱走兵の物語だった。ロングエンゲージメントなんかはヨーロッパになるから少し話が違うようだ。

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兵隊やくざ』を見たとき心底驚いた。徹底的に軍隊を批判しているのである。戦争映画と言っても敵との戦闘は描かれることは無い。描かれるのは閉鎖的な日常、そして軍隊内のリンチ、非人間的な組織の描写である。

主人公の大宮は豪快で喧嘩が強い、欲望のおもむくままに生きる。そして弱い人間に情けをかけて、権威や権力を嫌う。まさに浪花節である。娑婆では人を殺しているし、決して品行方正な社会人ではない。カーとすれば暴力を振るうし過ちも犯す。女と酒が好き、へそ酒は多分僕も好き。

そして彼は肯定的に描かれるのである。

自由を奪われた人間が生きる姿が凄まじい迫力で迫って来る。脱走した同僚を捜し、荒野で叫ぶ彼の姿は心を打つ。

慰安婦が脱走を決意した二人に『脱走の成功をお祈りします』と話すシーンいいなあ。
この映画の視点は権力者の為に命を失って行く兵卒と慰安婦の元にある。

結局は、大宮をリンチした兵隊も南方で死ぬのである。兵隊は皆死に向かうレールを走って行くのだと感じさせる。

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僕は娯楽と言う形を取りながら、この時代のクリエーター達がいかに戦争を憎み軍隊を嫌悪していたのか肌で感じる。

そして、近年作られる戦争映画の何と中身の無いことか、死を美化して、死に向かう兵士を光り輝くように描いてどうするのだ。今の時代がいかに右傾化しているのか考えると嫌な気持ちになる。

そして封切られた時にこの映画を見た人々の心は癒されたのだろう。多くの人間が死んだ戦争が終わったばかりだったのだ。
死は苦痛であり、他人の為に死ぬ人生は、他人の為に生きる人生と同じくらい辛いものだ。

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戦争はいやだ、そして今この瞬間も軍隊が人を殺していることを忘れてはいけない。

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