糖尿病の文献学 インスリンの歴史、糖尿病の治療の歴史
本を読むのは楽しい。何よりも筆者の考え方を知ることの面白さが有る。自分が変わっていくことも面白い。
「インスリンの発見」1993年 マイケルプリス
最初の頃に読んだ。
医学史は難しい、専門的でありながら膨大な資料を紐解かなければならない。
そして歴史を捉える視点が問題である。著者は、そういう意味で、医療の問題をきちんと捉えている。
『インスリンという特効薬は、多くの1型糖尿病患者にとっては福音であったかもしれないが、効果の有り過ぎる特効薬は時に間違いを犯す。』
インスリンだけでは治療にならないことを人々は忘れがちなのである。
この本を読むと、私達は、何も分かっていないのだということがよく分かる。
名著である。
- 作者: マイケルブリス,Michael Bliss,堀田饒
- 出版社/メーカー: 朝日新聞
- 発売日: 1993/05
- メディア: ハードカバー
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「ミラクル」2013年 シアクーパー、アーサーアインスバーグ
インスリンの発見を患者の側から見た本である。
「インスリンの発見」でも最後に触れられているエリザベスヒューズの物語である。
糖尿病がどのような病ととらわれていたのかが分かり面白い。
さまざまな人間のドラマがそこにはあったのである。またインスリンが発見からあまりに早く薬品として実用化された事、医薬会社にとってあまりに大きな収入源であること、医師にとっても処方だけで問題が解決すると思わせがちなこと、などを論じている。
最後の一文が、端的にこの病の現実を表している。
- 作者: シア・クーパー,アーサー・アインスバーグ,門脇孝,綱場一成
- 出版社/メーカー: 日経メディカル開発
- 発売日: 2013/02/07
- メディア: 単行本
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「インスリン物語」2002年 二宮陸雄
実に詳しく、糖尿病の歴史が書かれている。
また、膵臓の構造や、他では見ることの出来ないインスリン生成のメカニズムなどが端的に記載されている。
膵臓がどんな形して、どんなふうに体の中にあるかの記載はいいなあ。二宮陸雄さんは素敵な方である。
手元にあるだけで「糖尿病を切る」「心温まる医療を求めて」「糖尿病と戦う」「職業としての医師」を読んだ。
インスリン物語は最後に読んだ本である。SU剤が市販された当初、多くの問題を引き起こして、死亡者、植物人間となった人がいたことを書いてネットで見つけて読み始めた。
医療は、患者と医師の交流であり、互いを尊重しあうことで、変わっていく過程である。
昨今の「マニュアル的なエンパワーメント」などというものではなく、「自分が変わる」と言う要素が含まれているはずである。
医師も、患者も、毎日が人生の一部であり、診察室で二人は出会う。
互いに相手に言葉を伝え、変わっていく。たんなる薬受け渡し指示所ではないのである。水滴が岩の形を変えるように、医療を通じて、患者と医師はたがいにその姿を変えていく(べきである)。
そういう意味で、教育と医療は同じ側面を持っている。
今気がついたのだが、2015年に新装版が出ている、嬉しいものである。
- 作者: 二宮陸雄
- 出版社/メーカー: 医歯薬出版
- 発売日: 2002/09
- メディア: 単行本
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これ以外にも数冊インシュリンの歴史的な本はあるが、あまり面白くない。
行け行けドンドン的な、医学の勝利バンザイ的な本が多いのである。
謙虚に現実を見なければ、進歩(?)はない。
インスリンは糖尿病を治療しない、患者の死を少しだけ伸ばしているだけなのである。
「低血糖」をあたかも病気の一部のように書く人達がいる。
はっきり言って、低血糖は「治療の不備=適切な処方がなされていない」から生ずる医療事故と言ったほうが良い。
医者は「インスリンや血糖降下剤」を処方するが、いつどのくらい使えばいいかまでは、知らないから教えてくれないのである。
それは、患者の体と心、生活の中に答えがあるのだ。
だから患者に自己血糖測定をさせて、低血糖にならないようにしなさいと言うのである。
これは恐ろしい事である。
死に直面するほどの劇薬の使い方がはっきりしていないのである。
血糖値が簡単に下がるからという理由で、医師は処方する。
インスリンが多くの糖尿病患者にとって重要な薬であることは間違いない。
すべて止めろとは思わない。
しかし、「患者の無知と医師の傲慢」で成り立っている今の状況は間違えているのである。
誰も幸せにならない。
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