人は皮膚を超えて心を共有できるのだろうか? パシフィック・リム所感



パシフィック・リムと言う映画があることをしばらく前に聞いた。
日本産の怪獣映画やロボット物のアニメへの深いリスペクトにあふれた作品であると聞いて少し期待する反面、不安もあった。
僕はその世代なので期待半分、不安半分であった。

日本のロボット物がハリウッドでリメイクされた事ばかり語られているので、期待はそんなに大きくなかった。
余りがっかりしない様に心構えて見たのだが全く必要なかった。

最初の発進->戦闘を見ている間にあっという間に取り込まれた。



ロボットを人間が操縦して怪獣と戦うという物語なのだが、面白いところはその操縦方法である。
特殊なスーツを着て、二人の人間が精神を共通化して、片方がロボットの右脳、片方が左脳となって操縦するのである。
二人の精神の共有化(ブレインハンドシェイク)の時に互いの記憶や感情が一つになるのである。

「ドリフトと言うテクノロジーは戦闘機の神経操縦システムの応用だ。パイロットの記憶が融け合い心身一体となる。つながりが深いほど強くなれる』そうである。

このドリフトは、人の心をつないでくれるのである。

世界中の人々がドリフトできたらいいのになあ。


攻殻機動隊などの「電脳」と言われるアイデアなども一緒である。





現在、「心」(=意識)はそこにあるのかは解明されいない。
「心」を生み出す装置としての脳は深く分析されている。
体という細胞のマンションが情報を脳に送ることは解明されているが、その装置からどのような仕組みによって「心」が生み出されているかは全く解明されていない。
脳のある部分に刺激を与えると意識には変化が生まれるからと言ってそこに「心」があることにはならない。

細胞が栄養を求めてそれを様々な形で他の細胞は知る。
その結果「食事」を摂るが、いかにして意識と細胞が共鳴しているかは全く分かられていない。
分子生物学の限界である。



人は生まれて死ぬまで、感覚や感情、一般的に心と言われるものを他者と共有することは出来ない。
あくまで、類推しているだけである。
自分に有るということはわかるが、他人にも有るということは証明することは出来ない。
自分の心をわかってほしいと思いながら、決して分かってもらえないことを知っている。
芸術と言われる作為は全てこの孤独から発するものである。

人と言う生命が他の生命と違っている点を挙げるとしたら、「孤独」を感じるかどうかということだと僕は思っている。


1980年台のSFにはこの事を考えているものも多い。
レインズマン大好きだったなあ。
確かマインドブリッジと言う物語でも有ったと思うが、本がみつからない。
宇宙人ポールは自分の記憶を伝達出来る。
カート・ボネガットさんの拡張家族なんかも同じ主題だと思う。
あの頃のSFって、SF的と言われる舞台で、人の心がどう変わるかということを実験していた。
そして新しい自分を、物語の終わりに見つけるのであった。





その人の記憶を理解できれば、心を共感できれば、多くの困難な問題は解決する。
というよりも、出来ない所に問題はある。
市民活動も、いかに共感し合えるかということがおおきな問題である。
ディスコミュニケーションこそが僕らの世界が抱えている問題である。



ロボットを操縦しようとするときに、パイロットの二人はシンクロする。
この設定に違和感なく入っていけるとこの物語は楽しめる。
SFとは思考実験だとアシモフさんは言った。
道具立てや、舞台は深く遠くへ私達の心を導いてくれる。


ボロ泣きだった。





僕たちは限られた肉体の中に生きて、孤独を知り、他者と繋がろうとする。
私達の「生」が複雑になるのはこのためである。


小説や音楽、演劇や映画、音楽や全てのアートはこの問題を解決しようとする。
だから、僕らはアートを求めていくのだ。

高橋和巳さんが学生の頃、桑原武夫さんが問いかけた逸話を何処かで読んだのだが、どこかわからない。


所で、あのでっかい雨傘欲しいなあ。


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ウタマルさん、も少し、この辺りを語ってもらいたかったが、無理か。
町山智浩 は全くダメであった。単に面白い、日本のロボットアニメは世界で評価されている。ということを煽っているだけであった。

この映画をロボットアニメの延長と考えては面白くもなんともない。



心に深い傷を負った二人が、ドリフトで心をつなぎ理解し合う。そして、共に困難と闘い、傷を乗り越えて未来を見つける物語なのである。


ボロ泣きである。

僕らは決して怪獣と戦うことはない。
しかしながら、毎日の生活は怪獣との戦闘と同じくらい困難なものである。

僕らは、否応なく大事な人を失う、毎日の生活を続けながら、その傷を乗り越えて生きていくのである。

僕は人生で、誰かと心つながりあうことが出来るだろうか。
困難を乗り越えていけるだろうか。
そして乗り越えるためには誰かと『ドリフト』出来なければならない。

まだ見ぬ仲間と、共に同じ夢を見て前に進みたい。

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